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がん診療の幅が広がります。漢方で治療が継続し、希望につながります。

●がんとがん治療に伴う苦痛の多くは、漢方治療で軽快します。
●漢方は現在の標準的ながん拾療が無効となり、緩和ケアを勧められた患者さんの「次の一手」となります。
●漢方に加え、食事、運動、呼吸、湿熱、加持祈祷など、さまざまな治療法を駆使すれば、がんとの闘いを有利に展廃することができます。

1.がんに伴う症状の改善

1.1 不安・抑うつ

現在ではがんは必ずしも「不治の病」ではなくなりましたが、それでもまだ「がん=死」というイメージは強く、「がん」と診断された時の精神的動揺は相当大きいため、患者は絶望し、抑うつ、不安、不眠などを訴えます。
このような場合、西洋医学的には抗うつ薬や抗不安薬が用いられますが、あまり効果はありません。
ところが患者の状態(証)に合った漢方薬を用いると、ほとんどの人が気力を取り戻して元気になります。
気分がよくなり、食欲が回復して眠れ、だるさや手足の冷えもなくなり、便通もよくなります。
抑うつや不安に対してはさまざまな漢方薬が用いられますが、補剤の●補中益気湯>が著効を示すことが多く、その他に●柴胡桂枝乾姜湯>がよく用いられます。
また不眠の患者の多くは駆癌血剤の●桂枝茯苓丸>を寝る前に1~2包のむとよく眠れます。

1.2 冷え

冷えに苦しむがん患者は実際には非常に多いのですが、西洋医学では冷えは病気と考えず、治療の方法もないため、自分から冷えを訴える患者はほとんどいません。
一方漢方では「冷え」は、診断のために極めて重要な症状です。
がんの背景には冷えがあり、冷えや低体温の改善と併行して病気もよくなっていきます。
冷えにはさまざまなタイプがあり、それぞれ原因も治療法も異なります。
筋肉での熱産生が低下している場合、心機能の低下や血管の病気で血の巡りが悪い場合、あるいは身体を冷やす飲食物の摂りすぎによる冷え、などがあります。
冷えの治療としては、これらの問題を考慮しながら、漢方治療を行います。
身体を冷やす飲食物を控え、蛋白質を十分摂り、運動をして筋肉量を増やすことが大切です。
漢方薬では、気血を補う補剤、血の巡りをよくする駆癌血剤、熱産生を高める附子や乾姜を含む漢方薬、心機能を改善する漢方薬を用います。

1.3 口内炎・舌炎、口渇・”腔乾燥

口内炎や舌炎は、抗がん剤、放射線治療、ビタミン欠乏、低栄養、ウイルスやカビの感染など、さまざまな原因で起こり、原因に応じた治療を行います。
抗がん剤による口内炎には、新薬の胃粘膜保護薬(「ムコスタ」の水溶液を口の中に含む、「プロマックD」の口腔内崩壊錠を口の中で溶かす)や漢方薬が有効であり、カテキン茶などでうがいするのも効果的です。
漢方薬では半夏瀉心湯、黄連解毒湯、温清飲などを用いますが、漢方薬は1回分を50㏄程度のお湯に溶かしてよくうがいをした後にのみ込みます。
放射線治療で唾液が出なくなり口が乾く場合には、副交感神経刺激薬の「サラジェン」が使われますが、大量発汗や下痢などの副作用があります。
一方、麦門冬湯は副作用が少なく、体質に合った漢方薬を併用すると、多くの患者で唾液が出るようになります。

1.4 帯状庖疹後神経痛

がん患者では免疫力の低下により、神経の支配領域に沿って帯状に痛みを伴う水庖ができる「帯状庖疹」がみられます。
急性期には抗ウイルス薬で治療しますが、水庖や炎症が消えた後に長期間痛みが続く「帯状痘疹後神経痛」が起きることがあります。
これに対しては「リリカ」などの新薬が使われますが、副作用が多く、有効率もさほど高くはありません。
この場合、漢方薬の風邪薬(麻黄湯、葛根湯、麻黄附子細辛湯など)が通常劇的に効きますが、有効な漢方薬を決めるためには、「脈診」による漢方診断が必.要であるため、漢方診療医の治療を受けることをお勧めします。

1.5 しゃっくり
しゃっくりはがんによる神経の圧迫や浸潤、手術後の後遺症、電解質・代謝異常などで起こります。
「シスプラチン」などの抗がん剤の副作用で起きることもありますが、多くは原因不明です。
長期間しゃっくりが続くと、患者は体力を消耗します。
西洋医学的にはさまざまな薬物の投与や物理的刺激が行われますが、さほど有効な治療法はありません。
漢方薬では、健康保険で処方できる「芍薬甘薬湯」や、薬局で購入できる「柿帯湯」(コタロー製薬の「ネオカキックス頼粒」)が有効で、試す価値があります。
これらが無効であれば、漢方診療医を紹介してもらいます。

1.6 がん性腹水

がん性腹水は、腹腔内へのがんの転移(腹膜播種)、がん性腹膜炎、肝がんによる門脈の閉塞や、がんによるリンパ管(胸管)の閉塞によって起こります。
通常は利尿薬を用い、定期的に腹腔に針を刺して腹水の排液をくり返しますが、徐々に栄養状態が悪くなり、患者は元気がなくなります。
腹腔内に抗がん剤を投与することもありますが、さほど大きな効果は期待できません。
新しい方法として、近年では腹腔-静脈シャント術(デンバー腹水シャント)や、「腹水濾過濃縮再静注法一KMICART)」が、一部の病院一要町病院腹水治療センターなど一で行われ、しばらくの間は快適に過ごすことができます。
漢方では、がん性腹水や胸水の治療には、補剤に加えて●五苓散>などの利水剤を併用すると、時に有効な場合があります。

2.がん治療の副作用や後遺症の改善

がん患者は、がんそのものによる症状だけでなく、手術・抗がん剤・放射線などの治療による副作用や後遺症にも苦しみます。
がんの治療が終わっても、苦しみは続くのです。
抗がん剤の副作用や後遺症は多彩です。
血液毒性(貧血・白血球減少・血小板減少)、消化器毒性(口内炎・悪心・嘔吐・下痢・便秘・しゃっくり・肝障害)、神経毒性(しびれ、麻痺、味覚障害)、過敏反応(発疹・発熱・間質性肺炎)その他(身倦怠感、食欲不振、脱毛、皮膚障害など)があります。

現在はこのような抗がん剤の副作用への対症療法も進歩しましたが、つらい副作用のために、途中で治療を断念し、あるいは拒否する患者は少なくありません。
しかし、がんの治療中に漢方薬を併用すると、副作用が軽減し、計画通りの治療が最後まで受けられます。
また、さまざまな後遺症が漢方治療により軽快します。
その結果、栄養状態が改善し、免疫力が回復し、苦痛の少ない状態で延命することが可能になります。

2.1 抗がん剤による末梢神経障害

手足のしびれや運動麻痺などの末梢神経障害は、タキサン系抗がん剤(タキソール・タキソテール)、白金系抗がん剤(シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン)、ビンカアルカロイド系抗がん剤(ピンクリスチン)などで起こります。
末梢神経障害は、一旦発症すると治療困難な場合が多く、治療よりも、予防の方が効果的です。
抗がん剤治療と同時に●牛車腎気丸>を投与すると、末梢神経障害が起きにくく、長期間抗がん剤の投与が継続できるという報告があります。
西洋医学的な治療薬として、ビタミンB12(メチコバール)、神経伝達抑制薬(リリカ、抗てんかん薬など)が用いられますが、眠けやふらつきなどの副作用が多い割に、大きな効果は期待できません。
発症してしまった末梢神経障害に対して、漢方薬は、●牛車腎気丸>などの単独使用ではさり士ほど大きな効果はありませんが、牛車腎気丸、芍薬甘草湯、附子末、桂枝茯苓荏苓丸、柴胡剤などを組み合わせると、しばしば著効がみられるため、漢方診療医を紹介してもらって下さい。

2.2 消化器がんの手術後の症状

食道、胃、大腸、肝臓、胆、膵臓など、消化器がんの術後患者に見られるさまざまな後遺症に対しては、まず西洋医学的に病態を明らかにし、原因に応じた治療を行います。そしてそれが無効の場合に、漢方薬を用います。

2.3 胃がん手術後の通過障害

胃がんの手術後の早期に通過障害が起き、胃に食物が停滞して食べられず、退院できないことがあります。
この場合、新薬の胃排出促進薬(プリペラン、ナウゼリン、ガナトンなど)は無効のことが多いのですが、胃の動きを促進し、吻合部(つなぎ目)の浮腫を改善する●荏苓飲>と、補剤の●補中益気湯>の併用は有効です。

2.4 膵がん手術後の下痢と消化吸収障害

膵がんの手術後の下痢は、膵液中の重曹と消化酵素の減少による食物の消化不良が原因です。
治療は、胃酸分泌を減らすパリエットやタケプロンなどと、大量の消化酵素薬(1日9g程度)、重曹を併用し、食事を高蛋白・低脂肪食とします。
しかし膵がんが進行し、神経叢も切除するような広汎な手術となった場合は、これだけでは下痢は治まらないため、強力な下痢止めである「ロペミン」や「アヘンテンキ(アヘン散)」も必要になります。

これらの治療に加えて漢方薬を併用すると、患者の状態はさらによくなります。
侵襲の大きな手術の後で体力が低下しているため、補剤の●補中益気湯>と●当帰建中湯>併用が有効な場合が多いのですが、その他に●甘草瀉心湯>、●附子理中湯>、●伏苓四逆湯>などが有効な場合もあります。
漢方診療医にご相談下さい。

2.5 腹部手術後の腸閉塞(イレウス)

腹部手術後の癒着による腸閉塞(イレウス)に対しては、まず絶飲絶食として、胃や小腸内に入れたチューブで腸液を吸引しますが、腸閉塞が解除されるまでに通常は長期間かかります。
この場合、チューブから漢方薬の●大建中湯>、または(大建中湯+補中益気湯)を注入すると、速やかに腸閉塞が改善する場合が多く、時にはチューブを使わずに、漢方薬をのむだけで腸閉塞が改善することもあります。
さらに、腸閉塞を何度もくり返している患者では、漢方薬をのむことで、腸閉塞の再発が予防できます。
ただし、がん性腹膜炎による腸閉塞の場合は、通常漢方薬の効果は期待できません。
腸液の分泌を減らすサンドスタチンの注射により、チューブを入れずに患者の苦痛を軽減させることができます。

2.6 乳がんのホルモン療法の副作用

乳がん患者は、手術や放射線治療後に、エストロゲン(卵胞ホルモン)受容体陽性であれば、手術後5年間程度、女性ホルモンの作用を抑える「ホルモン療法」を受けることになります。
この場合、女性ホルモンの作用が急になくなるため、激しい更年期様症状が起こります。
1日に数回から数十回、突然全身が熱くなって大量の汗をかくホットフラッシュの他に、動悸、イライラ、抑うつ、関節痛などの症状が起こります。
その苦痛のために、治療を途中で断念する患者もいます。

乳がんのホルモン療法により、更年期障害に似たホットフラッシュが起きます。
これに対しては、柴胡剤のいずれかと駆癖血剤のいずれかの併用が有効ですが、それぞれ何を選ぶかは腹診を行って決めるため、漢方診療に慣れた医師を紹介してもらう必要があります。

通常の更年期障害に対しては「ホルモン補充療法(HRT)」を行うことがありますが、乳がん患者には使用できません。
漢方治療では、「柴胡」を含む「柴胡剤」のいずれかと、血の巡りをよくする「駆嚇血剤」のいずれかを併用します。
漢方薬の組み合わせば、「腹候」に基づいて決定しますので、漢方診療医を紹介してもらう必要があります。
漢方薬が乳がんのホルモン療法の副作用になぜ有効かは不明ですが、乳がん細胞のエストロゲン受容体には影響をあたえず、正常細胞のみに作用するエストロゲン様物質が漢方薬の中に存在する可能性があります。
なお、200人以kの乳がん患者の治療経験では、漢方薬によりホルモン療法の効果が打ち消されて、乳がんが悪化した患者はいません。
2.7 放射性治療の副作用と後遺症

放射線治療の副作用や後遺症で漢方治療が有効なものとして、放射線皮膚炎、頭頸部がんの放射線治療後の唾液分泌低下、放射線腸炎、放射線肺炎などがあります。
ここでは最も患者の多い、放射線治療による唾液分泌低下の漢方治療を解説します。

頭頸部がんの放射線治療後の唾液分泌低下による口腔乾燥に対しては、●麦門冬湯>を基本に、「補剤」または腹候で決定した漢方薬を併用します。
漢方薬を決定するためには、漢方診療医を紹介してもらう必要があります。
必要に応じて、副交感神経を刺激して唾液の分泌を促進する「サラジェン」(時に大量発汗や下痢の副作用あり)を併用し、またシュガーレスガムを噛み、舌まわし運動により唾液腺を刺激することも有用です。
さらに亜鉛が欠乏している患者が多いため、血液中の亜鉛濃度を測定したうえで亜鉛を補充するために、胃薬の「プロマックD」を併用します。
このような治療により、唾液が少しずつ出てくるとともに、味覚が改善して普通の食事ができ、言葉づかいもはっきりしてきます。普通に食事と会話ができるようになると、患者はとても元気になります。

3.漢方薬によるがんの痛みの軽減

がん患者が悩まされるさまざまな苦痛のうちで、痛みは最も高頻度にみられ、かつ生活の質を著しく低下させます。
痛みのために熟睡できず、食欲は低下します。
動くと痛みが強くなるため、横になって過ごすことが多くなり、将来への不安や医療への.不信が強まります。

3.1 がんの痛みの治療原則

世界保健機関(WHO)は、がん惨痛救済プログラム計画を作り、1989年に「がんの痛みからの解放」という冊子を出版して、提言しました。
この方法に従えば、約9割のがん患者が、がんの痛みはなくせます。
そのポイントは、必要かつ十分な量の鎮痛薬(消炎鎮痛薬あるいは麻薬系鎮痛薬)を、副作用を予防しながら用いることです。
まず夜間に痛みがなく眠れるようにし、次に昼間安静時にも痛みがないようにし、最後に身体を動かした時にも痛みが起きないように、段階的に鎮痛薬を調整していきます。
しかしわが国では、がん患者の痛みの合理的な治療法を学ばずに診療しているがん専門医が多いのです。
さらに、看護師や薬剤師がそのような現状を看過し、患者も痛みを我慢して主治医に訴えません。
その結果、日本では医療用麻薬の使用量は欧米各国の10分の1以下と極端に少なく、がん患者は世界標準のがん性疼痛治療を受けられていないのです。
「がん患者は痛みの治療に十分量の鎮痛薬を求める権利を持ち、医師はそれを投与する義務がある」というWHOの勧告を、がん医療に携わる医療者は重く受け止めなければなりません。
患者が我慢せずに痛みを訴えることと、医師ががん患者の痛みの治療法を身につけることが重要です。

3.2 漢方治療で鎮痛薬は減らせる

がん患者の痛みは、身体の痛みだけでなく、心理的、社会的、宗教的苦痛が組み合わさっているため「トータルペイン」と呼ばれます。

がんによる痛みの強さは、さまざまな要因によって影響されます。
がん患者では、さまざまな不快な症状がみられますが、そのような症状は痛みの閾値(感じる痛みの強さ)を下げて、痛みは強くなります。
漢方薬によるこれらの症状がなくなれば、痛みの閾値(感じる痛みの強さ)は上がるために痛みを感じにくくなり、鎮痛薬の必要量は減らせます。

身体の痛みは、体性痛(皮膚・筋肉・骨・関節などの痛み)、内臓痛(胸腔内-腹腔内)頭蓋内などの病変による痛み、(神経障害性癖痛(神経が原因の痛み)の3つに分けられます。
治療方法としては、体性痛には消炎鎮痛薬、内臓痛には麻薬系鎮痛薬、神経障害性痩痛には抗うつ薬や抗てんかん薬など神経伝達を抑える薬を、それぞれ中心とし、いくつかを組み合わせて用います。
がん患者の痛みの強さは、がんによる直接的な刺激の大きさだけで決まるものではなく、つらい身体症状(だるさ・食欲不振・下痢・便秘・冷えなど一や、ネガティブな感情一怒り・悲しみ-不安・恐怖-憂うつ・疲労など)によっても強くなります。
逆に、快食・快眠-快便・冷えの改善や、安心、喜び、楽しさなどのポジティブな感情によって、痛みは軽減します。
漢方薬はこのような身体症状や心理状態を改善することによって、痛みの閾値(感覚受容器の興奮を起こさせるのに必要な最小の刺激量)を高めて痛みを感じにくくし、鎮痛薬や麻薬の使用量を減らす効果があります。

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